ドライアイと緑内障
実家に寝泊まりしているとはいえ、生活費は稼がなくてはならない。
不定期だが、介護施設で宿泊する御老人たちのケアをするバイトを入れていた。
勤務は6時からだが午後5時半に施設に出勤。「業務引継簿」を確認し、不確かな事柄について午後6時までに日勤の人たちに再確認を行う。
入浴はすでに済んでいるので、午後7時に夕食を給仕し、午後9時には就寝を促す。
午後10時からは2時間おきに就寝しているご老人たちの状態を確認する。必要に応じて排尿の補助を行う。
脈拍や血圧を簡易計測器で確認することもあるが、大抵は寝息の確認だけでも大丈夫だ。しかし、百歳を超えるご老体となると、寝息が静かすぎて時々止まっているのではないかと不安になることがある。特に寒い冬場は怖い。
一応、午前0時から2時間は休憩時間となっているのだが、心配すぎて一睡もできない。朝食の準備や清掃、帳簿の管理等で結構時間は過ぎていく。パソコンが得意なぶん余分な仕事も請け負っている。
午前6時に起床を促し、洗顔、入れ歯の装填、朝食の準備及び給仕等をしてると午前8時半頃から日勤の人たちが出勤してくる。
午前9時に帰宅するのだが、もともと地球の裏側で3年も住んでいたため、夜勤に出ると一週間くらいは体内時計の調子がおかしく寝付けない。仕方がないので、夜勤のあとは、無理して夜まで寝ずに我慢していた。
だんだんと目が充血して目やにが出始めたが、現役時代、霞ヶ関では一ヶ月の残業が200時間を超え、1日の平均睡眠時間が1時間なんて事もザラだったので、何とかなるだろうと甘い考えを抱いていた。
5月下旬には目が痛くてものもぼやけて見え始めたので、眼科専門の病院に行くことにした。インターネットで調べて、筑豊電鉄の通谷電停近くにあるY眼科を選んだ。たまたま、そこに勤務する知り合いがいることがわかり、保険無し診療が可能かどうか確認する。
退職してすぐに海外に飛んだため、国民健康保険には加入していないからだ。
日本では国民皆保険だが、海外では無保険のところが多い。ちなみにボリビアでは歯垢をとるために定期的に歯医者に行っていたが、日本の3割負担と同等の料金を徴収される。日本には毎年正月に帰国していたが、日本である歯医者に行こうとしたところ、無保険だからと診療を断られた経験がある。
さて、5月下旬に検査を受けたところ、ドライアイと診断された。ドライアイ用の目薬を処方され、目のCT画像から右目の神経にくぼみが確認されたため、6月下旬に「視野検査」の予約をした。眼科なんて、あまり縁がなかったので知らなかったが、CT画像には感動した。そういえば、ニュースで角膜の再生技術が実用段階に入ったというのを見た記憶がある。やっぱり技術の進歩はすごいと思うし、日本がこれを手放しては絶対にいけないと思う。なお、目が充血してからは、市販の目薬を毎日さしていたのだが、どうやら効果はなかったみたいだ。
診療費用は目薬の購入代金を含めて1万円程度。国民健康保険の掛け金よりはるかに安い。年金の問題と併せて、ものすごい違和感を覚える。一度これらの制度について深く検討してみることにする。
さて、処方された「ヒアレイン点眼液」を使い始めて約一ヶ月、充血は治まり、数メートル先のものが二重に見えていた症状が緩和された。
予約していた日が到来し視野検査を初めて受ける。
目を開きっぱなしで光の小さな点が点灯したらボタンを押すのだが、4分〜8分という検査時間は途方もなく長く感じる。ちなみに検査時間は右目が8分で左目が4分だった。
さて、診断結果は右目の「正常眼圧緑内障」ということだった。左目の眼圧は15なのに対し右目の眼圧は12。右目の眼圧は一般人に比べて「低い」らしい。そして、緑内障の治療(進行を遅らせる)には眼圧を下げることが有効なのだそうだが、私の場合、すでに左目より眼圧が低い。それでも数値を「1」下げることができれば、効果が期待できるということで、「レスキュラ点眼液」を処方された。
生活費のためバイトを始めて、そのおかげでドライアイになってしまったが、その診療の過程で緑内障を発見できた。この正常眼圧緑内障というのは自覚がないので、ほとんど手遅れになってからしか発見できないという。
「人間万事塞翁が馬」のことわざではないが、これだから人生はおもしろいと思う。ちなみに今回の診察料は10000円を超え目薬の代金は3000円だったが、まだ、国民健康保険の掛け金より安い。